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2025年のM&A:世界市場に押し寄せる波
2024年12月16日 | ブログ
2025年のM&A:世界市場に押し寄せる波
ディールメイキングの潮目は変わりつつあります。アメリカにおける最近の選挙は、世界中でいくつもの波を起こしている複数の地政学的・経済的潮流のひとつに過ぎません。今後1年間におけるディールメーカーへの影響が、オンデマンドのウェビナーシリーズのテーマです。「2025年グローバル M&A 展望」はFinancial Times紙がDatasiteと共同で制作したものであり、この潮流が米州、EMEA、APACの各地域にいかに多様な影響を与えるかについて、重要なインサイトを提供します。
経済の潮目が重なるとき
ここで働いている最も印象的なダイナミズムは、米国とその大いなる経済的ライバル、中国における事象の対照性です。中国経済が規制強化のために減速しているちょうどそのとき、米国は規制緩和と積極的経済重視政策を掲げて政権を発足させました。この1年間、APAC地域は世界の他の地域に遅れをとっており、取引金額は世界平均で5%の増加に対して32%という驚くべき減少を示しました。対照的にDatasiteの調べではトランプ大統領の再選からわずか2週間後に米州のM&A活動が44%急増しており、この差を詰めることは困難である可能性が示唆されています。
しかし中国がAPAC地域における唯一の経済勢力ではありません。この地域全体では取引金額が落ち込んでいるにもかかわらず、実際には案件数が増加しています。これは中国が占める王座への挑戦者となり得るインドと日本に対する新たな関心によるものです。特にインドは「チャイナプラスワン」戦略の恩恵を受けています。これは企業が中国以外の少なくとも1か国に生産拠点を追加することで、中国国外で製造および調達事業を多角化させる戦略です。一方で中国の対外投資は依然として非常に健全です。
この2つの巨人の間に置かれているのがEMEA地域です。米国での選挙後に欧州のM&A活動は19%急増しました。これは不確実性を減らすだけでディールメイキングがどれ程刺激されるかを示しています。米国と同様に(しかしAPAC地域とは違い)、EMEA地域も金額に比べて案件数が不足しています。今やこのアンバランスが自ら修正される舞台が整ったかもしれません。 欧州の比較的安定した状況も、他の地域における著しい地政学的混乱によって相殺されており、EMEA地域は最もダイナミックな活動のいくつかが起こり得る可能性を秘めています。
AIの台頭が複数の分野を活性化
孤立した地域など存在しないことは明らかです。ある地域がくしゃみをすれば別の地域が風邪をひく(あるいは新しいワクチンを売り込む)のです。分野のレベルでも同様のつながりがあります。
例えばTMTはAIブームの後押しもあって、ここしばらく最前線の分野であることを示してきました。しかしAPACウェビナーで専門家が指摘しているように、AI技術には巨大なデータセンターが必要であり、データセンターには大量のエネルギーが必要です。そのためTMT活動が活発化すれば、エネルギーおよび公益事業分野全体にも波が起きることになります。そして2025年に最も躍進が期待されるその他の分野として、製薬・医療およびバイオテクノロジーがあります。製薬研究を強化・加速させる可能性をAIが秘めていることは明白です。そのため製薬取引は、コア資産を補強できる技術のボルトオンを視野に入れながら行われるかもしれません。
ウェビナーの生放送の視聴者が、主要分野において期待される取引活動について面白いインサイトを提供してくれました。これらは地域を横断して大まかに一致していますが、いくつかの興味深い、極端な差異さえ存在します。例えばEMEA地域とAPAC地域全体ではTMTが一世を風靡することが予想されますが、エネルギーおよび公益事業と製薬・医療およびバイオテクノロジーが重視される米州では、さざ波を立てるのがやっとです。EMEA地域でも製薬とエネルギーはともにトップランナーである一方で、APAC地域ではその存在感は小さなものに過ぎず、TMTのすぐ後ろに消費者分野が迫っています(他の地域では消費者分野はほとんど目に見えません)。
専門家パネリストの多くは、AIが極めて重要な問題であることに同意しており、一部のパネリストは、あらゆる議論にAIを持ち込まずにいることは難しいと残念そうに述べています。一方で、「ドットコムバブル2.0」になりかねないことについての警戒感もあります。他方で多くのパネリストが、たとえ不完全なAIへの投資であっても、完全に乗り遅れるよりは良いかもしれないと認めています。それに加えて、AIを搭載したツールがディールメイキングのプロセスそのものをいかに改善してスピードアップさせられるかについて、非常にワクワクする見通しもあります。
AIの著しいエネルギー需要を考えると、アメリカの選挙結果はここでもまたエネルギー分野を徹底的に揺さぶるものとなりました。化石燃料に対するトランプ政権の緩和的な姿勢は、これらの分野における活動を再燃させ、いくばくかの風を再生可能エネルギーの帆から奪うことになるでしょう。とは言え、ひとつにつながった世界として見れば再生可能エネルギーは依然として前面に押し出されるはずであり、特にAPAC地域がその下位部門を牽引しています。
流動性を加えるだけ...
あらゆる地域をまたぐ最近の最も大きな課題のひとつに流動性があります。米州ウェビナーのあるパネリストが述べたように、「多額の資金が、ごく少数の案件を追いかけて」います。高金利と高コスト資本は、ここしばらく世界的なトレンドとして取引の数を押し下げ続けていますが、厳選された一部の大型取引のおかげで、金額は広く維持されてきました。金利(あるいは少なくとも金利上昇基調)の引き下げに向けた現在の世界的圧力により、多くの抑え込まれたPE資本がまもなく市場に流出するはずです。
流動性の枯渇によって、多くの革新的で積極的な金融ソリューションが促進されました。中でも注目すべきは、継続ファンドの利用の増加によって、プライベートエクイティファンドが高パフォーマンスの資産をより長く保持できるようになったことです。 しかし現在この「借り換え市場」が変化しつつあり、銀行も本来の仕事に戻って融資を再開する準備が整いつつある兆しがあります。
取引を成功させるという点では、強力な評価額分析と交渉の必要性についてウェビナー視聴者の意見が一致しました。これはAPAC地域における最優先事項であり、他の地域では次点となっています。地域市場に関する知識も極めて重要であると、米州がAPAC地域に同意する一方で(米州では1位、APAC地域では2位)、EMEA地域の回答者たちは異なる方針を採用し、成功の鍵としてクリエイティブな取引の構築を挙げています。
変化する取引環境を追跡
3つのウェビナーでは、転換点を迎えている世界の複雑なM&A像を紹介します。さまざまな流れが作用しており、すべての地域が同時に、あるいは同じようにその影響を感じるわけではありません。しかし国境を越える取引と投資の増加や、異なる地域と分野の間の基本的なつながりによって、全体的な展望としては迅速に行動するディールメーカーにとっての機会の拡大となっています。
ここでも視聴者に質問を投げかけたところ、その多くが企業の戦略的取引から最大の機会が生まれると見ており、米州とAPAC地域では第1位、EMEA地域では第2位となりました。また売却、清算、ボルトオンや同様の性質の取引も有望です。APAC地域ではクロスボーダー取引への期待も高く、ここでも顕著な相違が見られました。これらは他の地域ではそれほど大きな存在感を放っていませんでした。
お客様ご自身のチャンスを見つける機会を最大限に活かしてください。
Financial Times紙がDatasiteと共同でお届けする「2025年グローバル M&A 展望」ウェビナーシリーズに、是非ご参加ください。
グローバル M&A 展望シリーズ - オンデマンド
Financial Times紙との共同開催
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